今後に備えて【G:金額試算表(被害額>対策費)】

近年、被害が甚大な災害が増えており、今後も増える予想も出ています。

災害時は人のことが優先になりますので、予め自助(できれば共助)で是非備えておいてください。

福島では、農家の方々から「あの時家畜の避難先があれば良かった。(※水や電気がオフグリッドであり、できれば避難先から通う頻度が低くても生かせる、給餌や糞尿処理の手間を極小化した放牧地)」という声が多く聞かれました。

また、地域をまたいでの移動が可能だった20-30キロ圏の牛は、避難所として全国の24都府県の牧場(公営牧場中心)から10000頭の受け入れの申し出がありましたが、長距離移送に耐えられる繁殖用雌和牛が優先されて乳牛は大半を殺処分せざるを得なかったたり、緊急時避難準備区域より計画的避難区域を優先せざるを得なかったり、受け皿となる近場の避難所の数が足りないためトリアージが行われました

これらのことから、本ページでは、災害に備えて、「避難所を作る」場合にかかる費用を計算してみました。

●試算表 避難所の目的

・災害が発生した際、家畜(本試算表は牛)の命、畜産農家の方々の資産を守るために作成させていただいたものになります

●試算表作成にあたっての想定、事例

・停電による乳房炎の防止、またそれに伴う淘汰の防止

・避難時に家畜の飼育を長期間行えない場合の餓死、渇死の防止

・以上の災害、状況以外にも当てはめていただけるかと考えております。

●試算表内の用語

・資産価値=家畜本体の値段

・生産価値=畜産物の値段(生乳等出荷額)

・恒久柵=耐用年数20年~ ガッチリ頑丈なため、施工に比較的時間がかかります。平時から共同牧野として放牧に使い、有事にも備えておける恒久的な柵です。杭に単管パイプ(足場パイプ)使用。シート1は、こちらを基準に試算。

・簡易柵=耐用年数20年以下。災害直後でもスピーディーに設置できる柵です。杭は施工の楽な細いポールを使用。エクセルのシート2はこちらを基準に試算。

・地代=避難所として放牧柵を設置する農地の借地料です。耕作放棄地や荒廃農地を貸していただけると無料だったり、農地保全料が収入として入る場合があります。

・移送=家畜車での搬送。自家用があれば経費は燃料代くらいですが、本試算表では、プロの業者を手配した場合で計算しました。また、移送は、通常時の定期的な牛白血病やヨーネ病の検査をクリアしていればできますが、念のための検査費も計上してあります。原子力災害の場合は、体表のスクリーニング検査が加わりますが、行政が実施してくれます。

●試算の想定期間

原子力災害は数年以上になりますが、その他災害も多めに見積もって半年で計算してあります。

これは、2週間で復電したと報じられる山古志村で、実際に牛舎まで復電されるのに年を越した半年以上かかったことからです。

普段から共同牧野として使用しておけば、初期投資は一回だけとなり、後は固定費のみなので経済的です。

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■東日本大震災 福島 

発生日時:2011年3月11日

A 原発から20キロ圏内の警戒区域内

被害額①(資産価値損失):3488頭分、試算1,395,200,000円(震災前価格の一頭40万円として最も安く計算)

※原発事故の場合は、原発から半径20キロ圏内の全ての家畜は資産価値0円になりましたので、イレギュラーケースとなります。もし資産価値が残っていたらとしての試算となっています。牛の実際の賠償金は一頭60万円~120万円だったそうです。

被害額②(生産価値損失):試算 半年分で346,500,000円 1年分で702,625,000円

(毎日1,925,000円×日数分(※乳牛の頭数1000頭の7割×一頭25L×110円として計算))

その他の出費:放浪した家畜の捕獲殺処分費用560,000,000円(停電や断水時に家畜を入れておける牧野等の避難所が無かったため、餓死以外の、放浪してしまった家畜の捕獲、殺処分費用にかかりました。(何人かの農家たちが放浪している牛を入れようとして、富岡町の大倉山の旧共同牧野を調べたそうですが、20年前に閉園したまま柵が老朽化していて使えませんでした。また面積も狭く、多頭の収容は無理でした。)

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B  原発から20~30キロ圏の計画的避難区域9300頭と緊急時避難準備区域7500頭

被害額①(資産価値損失):

被害額②(生産価値損失)

行政対応①:生産された生乳の廃棄を余儀なくされている酪農家の負担軽減のために、急速乾乳の推奨及び技術的留意事項について通知を発出(平成23年3月24日)

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■北海道胆振東部地震

発生日時:2018年9月6日

被害額①(資産価値損失):90,000,000円(9千万円)

被害額②(生産損失):生乳廃棄2000L分 2,360,000,000円(23億6千万円)(農水省「平成30年北海道胆振東部地震による被害状況」令和元年12月11日内閣府「2019年度防災白書」より。)

「北海道胆振東部地震による北海道全域に及んだ大規模停電(ブラックアウト)は、農業分野においても深刻な被害を発生させた。特に、集出荷不可能となった生乳は全道で約2万トン、被害額は約24億円となった。これは、停電により乳業工場の稼働が停止したこと、多くの農場において自動搾乳機の停止や冷却装置(バルククーラー)が使用出来なくなったこと等により生乳を廃棄せざるを得なくなったことや、乳牛の乳房炎が発生したこと等によるものである。」(内閣府「2019年度防災白書」より)

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行政対応:全国の約半分を担う酪農大国北海道では災害後に酪農災害対策マニュアルが作られ、広く配布されました。発電機や水中心に備えるための規格や手順が詳細に説明されています。災害への備えを行政がサポートし、進みつつあります。

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■千葉県 令和元年房総半島台風 台風15号

発生日時:2019年8月30日 ー 2019年9月12日

被害頭数:7450頭(牛と豚)

被害額①(資産価値損失):783,191,000円(7億8千万円)(家畜全体)

被害額②(生産損失):220,204,000 円(2.2億円)、生乳1741.8トン

被害額合計:1,003,395,000円(※家畜全体及び畜産物)

「『畜舎などの関連施設が損壊し、長期の停電により生乳生産や家畜の飼養に大きな被害があった。』」全日畜がワークショップ 「災害に強い畜産経営」テーマに | 鶏鳴新聞 鶏卵・鶏肉・養鶏・畜産総合情報 (keimei.ne.jp)

詳しくはこちらから↓

千葉県農林水産部農林水産政策課「令和元年房総半島台風・東日本台風及び10月25日の大雨の影響による農林水産業への被害について(最終報)」令和2年3月19日

千葉での牛の被害額は、(採卵鶏や乳用牛、豚などの畜産は計9億9595万円

被害集計 (chiba.lg.jp)

行政対応①(停電への対応):
「生産者団体が中心となり、稼働している乳業工場への生乳の配送調整を実施。また、経済産業省の協力により電源車を配備していたクーラーステーション1か所も復電。全ての乳業工場で停電解消」

行政対応②(国立研究開発法人):

「国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)において、被害項目(家畜全般、果樹全般、野菜、農業用施設)ごとに技術相談窓口を設置(茨城県及び千葉県の農業試験場に対し、相談窓口を設置し、必要な協力ができる旨を連絡)(9月13日)」

農水省「令和元年房総半島台風(台風第15号)に係る被害情報」令和2年11月27日より

業界団体対応:

全日畜がワークショップ 「災害に強い畜産経営」テーマに | 鶏鳴新聞 鶏卵・鶏肉・養鶏・畜産総合情報 (keimei.ne.jp)

「千葉県全日畜の瓦井哲夫事務局長は、配合飼料メーカー11社が実施した畜産生産者への支援内容について「一番大きかった被害は停電で、次いで断水と家畜の斃死、畜舎などの崩壊。飼料メーカーは職員を派遣して被災状況を確認し、被害畜舎の処理や死亡家畜・家きんの処理などを支援した」とした。

中部飼料㈱鹿島工場の竹中一展営業課長は、畜産生産者への支援内容について「飼料の継続的供給に問題はなかったが、道路の寸断が障壁になり不通路を回避する情報を運送業者らと共有した。畜産生産者の要望に応じて延べ7日間、15人が斃死家畜の回収、生産物の回収、畜舎の修繕作業などを支援した」と説明。現場では、①発電機が確保できない②運搬用トラック(ユニック車)も確保しづらい③発電機の容量によってユニック車とは別にクレーン車が必要になる④発電機を積んだトラックが農場への進入路や発電機の設置場所に入れない⑤電気工事士の確保⑥燃料の継続確保――が支障になったため、現実に近い被害を想定したシミュレーションと、災害対応マニュアルの準備が重要だと強調した。

東金酪農業協同組合の長嶋透氏(全日畜理事)は、生産した生乳が現場で廃棄される辛さや、生産物を消費者に届けられないもどかしさ、ネットワークの大切さなどについて話した。

意見交換では「自然災害では何を大事にし、何をあきらめるかを考えなければだめで、すべてをやろうとしても無理がある」(北見社長)、「中小規模や家族経営の人たちに対し、自然災害への備えの意識を高めることが重要だと思う」(高橋社長)、「目の前のことで手一杯の時に、県養鶏部会のグループLINEで情報を共有できた。仲間とのやりとりで勇気づけられたし、ありがたかった」(林社長)などの意見が出された。

(一社)全日本配合飼料価格畜産安定基金の引地和明常務理事(全日畜監事)が「水とエサ、電気をいかに確保するかが大事。時間との戦いの中で、自分の日頃からの経験とセンスで対応するしかないのが現実である。一言で言うと『備え』だが、心構えを自分でどう整理するか。マニュアルはその材料のひとつでしかない。発電機などの物の備えも大事である」などと述べて終了した。」

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■熊本地震

被害額:9億7645万円

乳用牛150頭、肉用牛600頭、豚550頭、鶏54万羽、馬10頭の死亡や廃用処分、生乳の廃棄

※お断り※

・当試算表はあくまで避難所を作成する際の参考程度のものです。

・試算表に記載されている物品等の金額に関してはインターネット上にある金額のおおよその推定の平均額、また一部(人件費等)は、こちらの制作側の者の経験、主観による推定の金額であり実際とは大きく異なる場合がございます。

・牛の資産価値、牛乳の資産価値に関してもおおよその金額ですので状況により数値の上がり下がりはございます。

・記載に関して至らぬ点、満足ならない点もあるかもしれませんがご了承ください。

・当ページは特定の個人、団体等を誹謗中傷するものではございません。

・当ページの情報を利用して行う行動の一切の行為にについて、何ら責任を負うものではありません

●最後に

今回試算表の作成に当たりお電話、メールでの対応をしてくださった行政、企業の方々に感謝いたします。

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