概要【C:行政対応】

《震災後の全般的な対応》

震災発生直後から、飼料供給の確保や生乳等のモニタリング検査、避難先確保など多様な業務を行った。同時に、牛乳パック不足への対応、千葉県で3月に発生した鳥インフルエンザへの対応など、全国的な業務にも通常通り続けられた。詳しくは、以下URL参照。
農林水産省HP https://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/s_taisaku.html
東北農政局HP https://www.maff.go.jp/tohoku/seisaku/zyousei/file/pdf/10_02.pdf?fbclid=IwAR3uG2Oy-cw0mEqFrBPD0urc5suMigqQ3uRZ7Akhb06XFMmzxqQO9CWmbhI

《20~30キロ圏内》家畜について、計画的避難区域設定までは飼料供給等を行い飼養管理を援助した。避難区域設定後は、スクリーニング検査を行い放射線量が基準値以下だった家畜のみ、避難区域外への移動のマッチング等を行った。

《20キロ圏内》家畜については、当初警戒区域設定により区域内での立ち入り作業が厳しく制限されていたこと、また、区域内で業務を行う職員への放射線影響が未知数だったことから安楽死も困難、という見解であったが、5/12安楽死処分指示を発出した。

・農水省職員が実際に何度も出向き、20キロ圏内、あるいはその周辺地域の畜産農家や酪農家との意見交換や対策の進行を繰り返し行った。

《警戒区域内の家畜への対応》

『警戒区域内の家畜の安楽死処分の対応に関するQ&A』(農林水産省)
……「同区域内での家畜の飼養管理ができないこと等から、衰弱して餓死を招くという状況を放置することは農家にとってもつらい状況であることを考慮して、国として安楽死処分という形をとらざるを得ないと判断」

原田英男氏(元農林水産省生産局畜産部長)(震災当時:農林水産生産局畜産企画課長)もまた、これらについて、

「警戒区域設定により人が立ち入れなくなり、家畜の飼養管理ができなくなった。安楽死という道を選ぶしかないという苦渋の決断だった」
「放れ畜による交通事故も起きており、また、塩分不足から塩や味噌を求め牛が民家を荒らす事例があった。最終的には住民が帰還されることを前提にしているので、人家が家畜で荒されるということはやはり忍びなかった」
と語った。

なお、2012.4.5に発表された警戒区域内で家畜を“生かす”条件は、
〇出荷、20 キロ圏外への移動および繁殖の制限
〇食肉流通防止
  ・外見上識別可能なマーキング(牡牛座マークの凍結烙印)
  ・個体識別の徹底、個体識別番号のweb上での公開
  ・飼養場所への看板設置、盗難防止の施錠励行
〇徹底した家畜の線量管理
  ・20キロ圏内での移動の際は申請
  ・暫定許容値以下の購入した餌を与えるよう努める
  ・排せつ物の管理
などである。

継続飼養される牛の体につけられる牡牛座のマーク

その際に県から発出された通知はこちらである

《計画的避難区域の家畜への対応》

計画的避難区域・緊急時避難準備区域では、家畜を救出する取り組みが行われた。

畜種別の主な対応は以下のとおりである。

避難区域設定後は、スクリーニング検査を行い放射線量が基準値以下だった家畜のみ、避難区域外への移動のマッチング等を行った。

〇豚、鶏  企業的経営が主流であったため、企業の系列内農場への移動や屠畜出荷で対応

〇牛  5月9日までに以下のような方針が区域にあたる飯舘村、葛尾村などへ説明された。
・肉牛子牛…なるべく通常通りに競りにかける
・肥育牛…適齢期なら食肉処理、適齢期に達していなくても多少なら前倒し出荷を促す
・肉牛の繁殖用雌牛…県内外の受け入れ先を探し、なるべく移動
・乳牛…体力的に長距離の移動が困難であり、牧草の放射能汚染も広範囲に広がる見込みのため、大半は屠畜し食肉とする

牛の移動は、図3-6の移動フローに則り全頭スクリーニング検査を行い、放射線量が基準値(10万cpm)以下だった家畜のみに行われ、農林水産省が移動先のマッチングを行った。

移動に関し、農林水産省は牛の受け入れを募り、全国24都道府県が公共牧場等を中心に受け入れる意向を示していた。対象頭数 9300 頭に対し受け入れ可能頭数は1万頭を超えた。(朝日新聞デジタル2011年5月11日)

出典:dai3shou

県(家畜衛生保健所)

《震災後の全般的な対応》

通常業務に加え、様々な対応を行った。

震災直後
・避難区域内の畜産農家に連絡を取り、飼養状況等の把握

警戒区域設定後
・死亡家畜への緊急的な衛生対策(消石灰の散布やブルーシートでの被覆)
・生存家畜には畜舎に残る飼料や水等の給与
・津波等による被災家畜の処分
・計画的避難区域からの家畜移動に伴うスクリーニング検査

警戒区域内の家畜の安楽死処分指示が発出された後は、
・所有者の同意を得るための説明会を繰り返し開催
  状況の変化に応じて個別・丁寧な説明を行った
・警戒区域の家畜の安楽死処分
・安楽死処分死体の埋却地の確保(家畜所有者への説得、公有地の活用について自治体と協議)
・作業従事者の放射線防護管理、メンタルケア(黙祷、慰霊祭含む)
など。飼養方針変更後は、
・継続飼養農家への個別説明
・家畜の個体識別情報の確認および耳票の装着,マーキング等
を行っていた。

その他にも、
・畜産物からの放射性物質検出に伴う適正飼養管理の再点検
・畜産物の放射性物質モニタリング検査
などの業務が必要に応じて、あるいは継続的に行われていた。

《警戒区域内の家畜への対応》

「安楽死処分は、放射線の基準値ではなく国の政治に基づいて行った。」
「警戒区域の家畜は放射性物質の摂取の可能性が高く、食用に供せないことや、放射性物質の拡散防止の観点から、警戒区域外への移動はできないと考えられた」
「区域外に逃げられなかった家畜が飢えなどにより苦しんで死んでいくのを防ぐために」行った、としている。

当時携わった職員らは、「『復興(住民が安心して戻れる環境づくり)のため』をモチベーションに」業務に取り組んだと、藤本尊雄氏(福島県県中家畜保健衛生所衛生指導課長)(震災当時~2012.4相双家畜保健衛生所)などは記している。

太田大河氏、前田守幸氏(相双家畜保健衛生所)は、東日本大震災における死亡家畜対応についてまとめている。

○警戒区域外の死体処理
…災害対策基本法に基づき、市町村が災害廃棄物として対応し、主として津波により死亡した家畜馬 90 頭、牛35 頭を埋却した。家保は、農林水産省通知に基づき、家畜伝染病の予防・まん延防止のための助言を行った。

〇警戒区域内の死体処理…

  • 畜舎内に家畜の死体が散乱している場合、頭数や、牛の場合は耳標の確認
    →死体処理を地元の建設業協会に依頼
    →処理の確認後、畜舎の消毒を福島県ペストコントロール協会に依頼
  • 家畜が警戒区域内作業者の車両と交通事故で死亡することもある。見通しが悪い夜間に多く、事故後に家畜がまだ生きている場合、警察から連絡があり、夜間に安楽死を実施することも

〇警戒区域内の死体処理の基本方針
平成 23 年 5 月 12 日付けの基本方針(原子力災害対策本部・農林水産省)は、「死体の移動・埋却等は行わず、敷地内等で消石灰を散布し、ブルーシートで覆う」というものだったため、大量の蛆と悪臭が発生し、また、「埋葬もできないのに安楽死に同意はできない」という飼養者も多く、安楽死作業の障害となるといった問題が生じた。

平成 23 年 6 月 23 日の「福島県内の災害 廃棄物の処理の方針」公表を受けて方針が 見直され、平成 23 年 7 月 6 日以降、「一時 保管としての埋却を行う」こととされ、埋 却が可能となった。ただし、条件として、 ①埋却地に目印を立てる。②各埋却地の埋 却死体数を記録する。③放射性物質の濃度 を測定し、記録する。④地下水等に影響の 無いよう配慮する。⑤埋却方法は家畜伝染 病の場合に準じる。こととされた。

○埋却に際しての問題点

  • 埋却地が決まらないことによる安楽死作業の遅れ
    …せっかく放れ家畜を捕獲 しても、安楽死出来ず、警戒区域内で家保 職員が飼養管理を行うことも
  • 原則として家畜所有者の土地に埋却する こととされていたが、同意が得られず、或 いは埋却に適した土地が無く、市町村有地 にも埋却された。(実際には、個人の所有地 に分散して埋却するよりも管理し易く、手 続きが簡素、作業も効率的であった)。
  • 最終的に、豚・鶏はほぼ全てが家畜所有 者の土地に、牛は約半数が公有地に埋却されたが、安楽死された牛だけで見ると約 70%が公有地に埋却された。

なお、一時保管として埋却された家畜については、2017年2月6日に富岡町から最終処分が開始された(共同通信社youtubeより)。

橋本知彦氏、松本裕一氏(相双家畜保健衛生所)は、警戒区域の家畜対応に関し次のようにまとめている。

警戒区域内の家畜の安楽死を行うに当たり、以下のような問題点があった。
1.費用の問題(当初は県の予備費で対応、後に国の財政支援を含め総額 5
億 6000 万の予算措置)
2.埋却不可(公衆衛生の問題、家畜所有者の感情的障壁。後に方針が変わり解決)
3.原子力損害賠償との関係(家畜の安楽死に同意しないと賠償がもらえないと混同する所有者も)
4.所有者の同意取得の難航
5.飼養継続を望む所有者への対応
6.耳標未装着牛の取り扱い(弁護士による法的解釈も)
7.安楽死した牛の中間処理・最終処分(2014.1時点 未解決)
このように多くの問題を抱えながら、警戒区域の家畜の安楽死は開始されたという。

また、放れ畜の捕獲および安楽死に従事した職員に対し行ったアンケートの中で、有効だった捕獲手段について、一番は「(濃厚飼料などの)餌付け」だったが、おとりとなる牛を柵の中で飼育し、放れ畜を誘引する「おとり牛」も6割以上の票を集めたことが分かった。加えて、放れ畜の状態に関して、多くの職員が「順調に繁殖している」「奇形はない」と感じていたことが示された。

前田守幸氏(2012.4~2014.3福島県相双家畜保健衛生所勤務)は、警戒区域内の畜舎内で餓死した家畜の処分と放れ牛の安楽死処分に携わった。その際行く先々で目撃した放れ牛の状態について、「痩せている状態ではなく、毛づやも良く子牛も生まれており、いったいどこでどのように生き延びてきたのか聞いてみたくなるほど元気」だったと述べている。

※原発事故による放射能汚染は同心円状に拡がったのではなく,風向きや地形によるかなり不均一な汚染であったことが後の研究で分かっている。実際に、原発事故後半年における警戒区域内の南相馬市の牧場の牛 66 頭と,同時期の原発からおよそ 100km 離れた福島県外の牛のセシウム汚染レベルを見ると(図 1),区域内での汚染レベルのばらつきも予想されるものの、南相馬市の牛の汚染レベルが際立って低いことが分かる。

出典:*獣医師会会報45-2最終.indd (ivma.jp)

出典:
『福島の牛1万頭、24都道府県に受け皿 乳牛は殺処分』 朝日新聞デジタル2011年5月11日
坂本氏 『警戒区域で飼養されていた家畜への対応8_132 (2)
藤本氏 『被災牛と歩んだ700日
太田氏・前田氏 橋本氏・松本氏 第 54 回福島県家畜保健衛生業績発表会集録*88812.pdf (fukushima.lg.jp)
前田氏 『畜産福島』No.609 2018年 *30.4-609.pdf (lin.gr.jp)
家畜の最終処分について KYODO NEWS youtube『殺処分の牛、最終処分開始 原発事故の旧警戒区域
放射能汚染について 岩獣会報Vol.45『総説 福島第一原子力発電所事故で被曝した事故警戒区域内の家畜』 *獣医師会会報45-2最終.indd (ivma.jp)

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