概要【D:法律】

災害時の家畜救護の法律

日本には、災害時に家畜を救護するためのまとまった法律はない。

2011年当時は次の三つがあったが、未曽有の大災害の中、原子力災害特別措置法下でこれらの運用は果てしなく困難だった。

  • 内閣の防災基本計画「第15編 防災業務計画及び地域防災 計画において重点をおくべき事項」「第2章 災害応急対策に関する事項 10 災害時における動物の管理(衛生を含む。)及び飼料の需給計画に関する事項」  
    …「被災した飼養動物の保護収容,避難所等における飼養動物の適正な飼養,危険動物の逸走対策,動物伝染病予防上必要な措置並びに飼料の調達及び配分の方法に関する計画」(397ページ)

の項がある。さらに、産業動物に限って見ても、

  • 総理府告示「産業動物の飼養及び保管に関する基準 第5危害防止」
    …「 3 管理者は、地震、火災等の非常災害が発生したときは、速やかに産業動物を保護し、及び産業動物による事故の防止に努めること」
  • 環境省告示「動物の愛護および管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」「第2 今後の施策展開の方法2 施策別の取組 (8)災害時対策
    愛護対象動物は、「家庭動物のみならず、展示動物、実験動物、産業動物等であり、人の占有に係る動物

といった文言がある。

さらに2012 年8月の動物愛護管理法改正(2013 年 9月~施行)では、東日本大震災を契機 に、第 6 条動物愛護推進計画に「災害時における動物の適正な飼 養及び保管を図るための施策に関する事項」が加わった。
さらに本法案を作成した環境委員会は、「政府は、・・・施行するに当たっては、 次の事項に留意し、その運用について万全を期すべきである。・・・ 被災動物への対応については、東日本大震災の経験を踏まえて、動物愛護管理推進計画に加えて地域防災計画にも明記するよう都道府 県に働きかけること。また、牛や豚等の産業動物についても、災害 時においてもできるだけ生存の機会を与えるよう尽力し、止むを得 ない場合を除いては殺処分を行わないよう努めること。」とする委 員会決議を付した。……すなわち都道府県は、環境省が作成する基本指針に即して、動物愛護推進計画並びに地域防災計画の中に、災害時における産業動物を生かす対策を盛り込む必要が求められるのである。
なお、この委員会決議は2021年時点でまだ立法化されていない。

法律があるにせよ、その内容が実行されるためには、法律に沿って実際にどう動くか、具体的な部分が地域防災計画にしっかりと記述されていなければならない。今後、その位置づけを明確化し、動物の救護が適切に行える体制を整備することが必要だと考えられる。

海外の場合

海外の場合、たとえば英国の産業動物福祉委員会 (FAWC, 2012) は、「災害及び緊急時における産業動物福祉に関する 緊急時災害対策の見解」を発表している。
それによると、「災害において、人間はもとより家畜においても、生命及び福祉が脅かさ れる故に、対策が必要」とされている。なお、「災害」にはには今回のような地震・津波に加えて噴火・台風・洪水・ 猛暑等の自然災害、原発事故、口蹄疫や鳥インフルエンザ等の重要疾病の発生、テロ等の意図的災害、停電・断水・飼 料供給断絶等のライフライン災害、火災等が含まれる。
具体的には、換気、飼料、給水、避難、保護施設、獣医療(健康阻害、外傷、感染 症、乳房炎等への応急処置並びに巡回、安楽殺処分等)に加え、被災した所有者に代わる日常管理、屠体処理等である。 加えて、市場、屠場、輸送の確保も不可欠とされる。
災害のシナリオ、被害の予測、緩和対策、復旧事業が緊急時対策 であり、災害の可能性の高さに応じて、緊急時対策の必要性も検討されなければならないとされる。

出典:
佐藤衆介『東日本大震災と東京電力福島第一原発事故に伴う東北の畜産の現状と未来』 http://www.tochiku.gr.jp/download/2013vol62no03_t01.pdf
FAWC. Opinion on contingency planning for farm animal welfare in disasters and emergencies. 1-14. 2012. http://www.defra.gov.uk/fawc/files/Opinion-on-Contingency-Planning-for-Farm-Animal-Welfare-in-Disasters-and-Emergencies.pdf

「日本には災害時の家畜救護の法律が無いから公助は期待するものではない」

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